「薬剤師として海外で働いてみたい」と考えたとき、最初にぶつかるのが「日本の免許はそのまま使えるのか」という疑問です。調べ始めると国ごとに制度がバラバラで、何から手をつければいいか分からなくなる方も多いところです。
結論から言えば、日本の薬剤師免許で海外の薬局や病院にそのまま就職することはできません。ただし、国ごとに定められたルートを踏めば現地で薬剤師として働く道は開かれています。この記事では、日本人薬剤師の渡航先として現実的なアメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリスの4カ国について、公的機関の情報をもとに資格ルートと英語要件を整理します。
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この記事のもくじ
薬剤師の免許は海外でそのまま使える?結論と全体像
薬剤師免許は国ごとの制度に基づく資格です。日本の免許を持っていても、それだけで海外の薬剤師として登録されることはありません。渡航先の規制機関が定める評価や試験を受け、あらためて現地の登録を得る必要があります。
国は違っても、大きな流れは共通しています。
- 学歴・免許の評価:出身校の薬学課程と、日本での免許が現地の基準を満たすかを審査してもらう
- 知識試験:現地の薬学知識・法規を問う試験に合格する
- 実務能力の確認:実技試験や実務研修を通じて、現地の医療現場で働けるかを確認される
- 英語力の証明:指定された英語試験のスコアを提出する
- 登録申請:規制機関に登録し、就労ビザの手続きへ進む
ここで見落とされやすいのが4番目です。英語力の証明は最後の関門ではなく、多くの国で申請の前提条件になります。学歴評価を通過しても、英語のスコアが揃わなければ次に進めません。準備の順序を考えるうえで重要な点です。
制度は改定されます。実際、オーストラリアでは長く実施されてきたKAPS試験が2024年11月で終了し、2025年3月からOPRA®という新しい評価に切り替わりました。数年前の体験談や個人ブログの情報が現行制度と食い違っていることは珍しくありません。必ず各国の公的機関のページで最新の要件を確認してください。
アメリカで薬剤師として働くルート|FPGEC・NAPLEXと英語要件

アメリカでは、海外の薬学部を卒業した薬剤師はNABP(全米薬事審議会連合)が実施するFPGEC Certificationの取得から始まります。
NABPが公開している手順は次のとおりです(出典:NABP公式・Foreign Pharmacy Graduate Examination Committee)。
- NABPのe-Profileを作成する
- FPGEC Attestation(申立書と写真付き身分証)を提出する
- TOEFL iBTに合格する
- 学歴評価を受ける(成績証明・薬学学位証明などを提出)
- 他国で取得した薬剤師免許の証明を提出する
- FPGEE(薬学知識の試験)に合格する
- FPGEC証明の取得後、州の薬剤師会でNAPLEX・MPJEの受験資格を確認する
英語試験については、NABPはTOEFL iBTを指定しています。注意したい条件が3つあります。
- リモート監督・自宅受験のTOEFL iBTは認められない(テストセンターでの受験が必要)
- 4つのセクションを1回のテストセッションで受け切る必要がある
- MyBestスコア(複数回の受験結果を組み合わせる方式)は現在使えない
必要なセクション別スコアはNABPのページに掲載されていますが、ETSのスコア尺度変更にともなう改定が案内されており、受験時期によって基準が変わります。この記事では具体的な数値の掲載は避けます。申請前に必ずNABP公式ページで現行の基準を直接確認してください。
カナダで薬剤師として働くルート|PEBCと英語要件
カナダではPEBC(Pharmacy Examining Board of Canada)が資格認定を担っています。海外の薬学部卒業者は、書類評価から実技試験まで段階を踏んで進みます(出典:PEBC公式・Document Evaluation)。
- Document Evaluation(書類評価):薬剤師免許につながる学部課程を修了していることが最低要件です。評価結果の有効期間は5年間です
- Evaluating Examination:生物医学・薬学・薬局実務などを問う4.25時間のコンピューター試験です。ACPE認定校の卒業者はこの段階が免除されます
- Qualifying Examination:Part I(選択式)とPart II(OSCE=実技・臨床シミュレーション)の2部構成です
ここで期限に注意が必要です。Qualifying Examinationは、どちらか一方に合格してから3年以内に両方のパートに合格する必要があります。Part Iだけ取って間を空けると、やり直しになる可能性があります。
英語要件について、PEBCの公式ページには英語試験に関する規定の記載がありません。ただし、これは「カナダでは英語試験が不要」という意味ではありません。カナダでは州ごとの薬剤師規制機関が登録を管轄しており、英語要件はそちらで定められている可能性があります。渡航を検討する州が決まったら、その州の規制機関に直接確認してください。
オーストラリアで薬剤師として働くルート|APCのスキル評価と英語要件
オーストラリアではAPC(Australian Pharmacy Council)がスキル評価を行い、AHPRA(オーストラリア医療従事者規制庁)が登録を管轄します。
前述のとおり、KAPS試験は2024年11月の実施を最後に終了し、2025年3月からOPRA®(Overseas Pharmacist Readiness Assessment)に移行しました。古い情報を参照して準備を進めないよう注意してください。
APCは申請者を4つのストリームに分類します(出典:APC公式・Pathway)。
- Competency Stream:カナダ・アイルランド・イギリス・アメリカの認定薬学課程を卒業し、現地で登録している方
- International Student Stream:オーストラリアまたはニュージーランドの認定課程を留学生として卒業した方
- Knowledge Stream:上記以外の国の卒業者(日本の薬学部卒業者は通常こちら)
- NZ Registered Pharmacist Stream:ニュージーランド登録薬剤師
該当するストリームに応じて、薬学知識を評価するOPRA®、または実務能力を評価するCAOP®を受験します。評価結果はAPCのSkills Assessment Outcomeとして発行され、その後AHPRAへの登録手続きに進みます。
英語要件は、APCではなくAHPRAが「English language skills」という全医療職共通の登録基準として定めています。具体的なスコアは改定されることがあり、本記事の作成時点で公式ページの内容を直接確認できなかったため、数値の掲載は控えます。AHPRA公式サイトの登録基準ページで最新の要件を確認してください。
イギリスで薬剤師として働くルート|OSPAPと英語要件

イギリスではGPhC(General Pharmaceutical Council)が登録を管轄します。海外の薬学部卒業者はOSPAPというプログラムを経由します。4カ国のなかで最も手順と要件が明文化されています。
GPhCが公開している登録基準では、次の流れが定められています(出典:GPhC公式「Criteria for registration as a pharmacist in Great Britain」2025年11月版)。
- 適格性評価:GPhCにOSPAP受講の資格があるか審査してもらう
- OSPAPコース修了:GPhC認定の1年間のコースを受講する。適格通知から2年以内に開始する必要がある
- Foundation Training:イギリス国内で52週間の研修を受ける
- 共通登録試験:GPhCと北アイルランド薬学会が共同実施する試験に合格する
- 登録申請:OSPAP開始から4年以内、または試験合格から2年以内のいずれか早いほうまでに申請する
英語要件はGPhCのガイダンス(2025年6月改定版)に具体的に定められています。
- IELTS Academic:総合スコア7以上、かつリーディング・ライティング・リスニング・スピーキングの4技能すべてで7未満がないこと
- Pharmacy OET:4技能すべてで少なくともBを取得すること
いずれの試験も1回のテストセッションで受験する必要があり、スコアの有効期限は2年です。またIELTSはUKVI Life Skills版が対象外、OETはOET@Home®が対象外と明記されています。受験形式の選択を誤ると認められないため、申し込み前の確認が欠かせません。
英語圏の薬学課程を英語で修了した場合や、英語圏で2年以上の実務経験がある場合には、試験以外の証明方法も用意されています。自分がどの証明ルートに当てはまるかを早い段階で確認しておくと、準備の道筋が立てやすくなります。
資格取得以外の選択肢|企業駐在・CRA・国際ボランティア
現地の薬剤師免許を取り直す道のりは、時間も費用もかかります。「海外で医療に関わる仕事がしたい」という目的であれば、免許の再取得を前提としない選択肢もあります。
- 製薬企業の海外駐在:日本の製薬企業に勤務し、海外拠点へ異動する。日本の薬剤師免許と実務経験が評価されやすい
- CRA・治験関連職:グローバル試験に関わる職種。英文の治験実施計画書を読む力と、海外拠点との折衝で使う英語が求められる
- 国際協力・医療ボランティア:NGOや国際機関の活動に参加する。現地の薬剤師免許を必要としない形での関わり方がある
いずれも共通して必要になるのが英語力です。免許の再取得と違って制度上の期限に縛られない分、英語の準備を先に始めておくほど選択肢が広がります。
薬剤師の海外ボランティアという関わり方については実際にHLCAへ留学した薬剤師さんの体験談も参考になります。制度の話だけでは見えない、現地で言葉が通じたときの手応えが語られています。
国別比較表|難易度・期間・必要な英語力
4カ国の要件を並べると、準備の重さの違いが見えてきます。
| 国 | 資格ルート | 試験・研修 | 英語要件 |
|---|---|---|---|
| アメリカ | FPGEC Certification | FPGEE、その後NAPLEX・MPJE | TOEFL iBT(テストセンター受験・4技能を1セッション) |
| カナダ | PEBC Certificate of Qualification | Evaluating Exam、Qualifying Exam Part I・II | PEBC自体には規定なし(州の規制機関に要確認) |
| オーストラリア | APC Skills Assessment | OPRA®またはCAOP® | AHPRAの共通基準(公式で要確認) |
| イギリス | OSPAP route | OSPAP 1年+Foundation Training 52週+共通登録試験 | IELTS Academic 総合7・各技能7以上/Pharmacy OET 全技能B以上 |
費用と所要期間は各国の公式ページに明記がないため、この表には含めていません。学歴評価にかかる時間や試験の実施回数によって個人差が大きい部分です。各機関に直接問い合わせて見積もることをおすすめします。
表を見比べると、イギリスは要件が明文化されている一方で、1年のコースと52週の研修という長い在英期間が前提になります。アメリカは試験の比重が大きく、オーストラリアは制度が移行したばかりです。どの国が「易しい」かではなく、自分が確保できる時間とお金の形に合うかで選ぶのが現実的です。
海外で働くための英語力の身につけ方

ここまで見てきたとおり、どの国でも英語力の証明は避けて通れません。ただし、試験のスコアを取ることと、現地の薬局で患者さんに服薬指導ができることは別の課題です。両方を分けて準備する必要があります。
試験対策としての英語は、IELTSやOET、TOEFLといった各試験の形式に沿った学習が中心になります。求められるスコアは高く、特にイギリスのように4技能すべてに基準がある場合は、苦手技能を放置できません。
現場で使う英語は、これとは別の訓練が必要です。薬剤師の場合、次のような場面が想定されます。
- 処方内容と用法用量を患者さんに説明する
- 副作用の可能性と、症状が出たときの対応を伝える
- 併用薬やアレルギーの有無を聞き取る
- 医師や看護師と処方について確認を取る
これらは単語を知っているだけでは足りません。相手の反応を見ながら言い直したり、聞き返されたときに別の言い方で説明したりする力が要ります。実際に口に出す練習を積んで初めて身につく部分です。
服薬指導で使う具体的な英単語やフレーズは薬剤師の医療英語をまとめた記事で例文とあわせて整理しています。学習の進め方全般については薬剤師の英語勉強法の記事もご覧ください。
HLCAでは受講生の9割を医療従事者が占め、薬剤師の方も学ばれています(出典:HLCA公式FAQ)。職種ごとに必要な場面が違うため、教材を個別に組み替えながら進められる形をとっています。
薬剤師の海外就労についてよくある質問
Q. 日本の薬剤師免許は、海外でまったく評価されないのですか?
そのまま現地の免許として通用することはありませんが、学歴評価や免許証明の提出時に必要な書類として使われます。また製薬企業の海外駐在やCRAなど、現地免許を前提としない職種では実務経験とあわせて評価されます。
Q. 英語の勉強は、資格試験の準備と同時に始めるべきですか?
英語のスコア提出が申請の前提条件になっている国が多いため、先に着手するほうが結果的に近道になります。学歴評価を通過しても英語が揃わなければ次に進めません。
Q. どの国が一番働きやすいですか?
制度の重さが違うため一概には言えません。イギリスは要件が明確ですが在英期間が長く必要です。アメリカは試験の比重が大きくなります。ご自身が確保できる期間と費用から逆算して検討してください。
Q. 情報が古いかどうかは、どう見分ければよいですか?
各国の規制機関の公式サイトを一次情報として確認してください。オーストラリアのKAPS廃止のように、制度は数年で変わります。個人ブログや体験談は参考程度にとどめ、要件そのものは必ず公式で裏を取ってください。
まとめ|英語の準備から始めれば、選択肢は広がる
日本の薬剤師免許で海外の薬剤師として働くことはできませんが、国ごとのルートを踏めば道は開かれています。アメリカはFPGEC、カナダはPEBC、オーストラリアはAPCのスキル評価、イギリスはOSPAPが入口になります。
4カ国に共通するのは、英語力の証明が申請の前提になっている点です。裏を返せば、渡航先が決まっていない段階でも英語の準備だけは先に進められます。まず気になる国の公式サイトで現行の要件を確認し、必要な英語試験の水準と現在地の差を把握するところから始めてください。
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最終更新日:2026年8月25日
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