受付から「外国の方が来られています」と連絡が入る。日本語が通じないと分かった瞬間、何から確認すればいいのか分からなくなる。翻訳アプリを開こうとしている間にも、患者さんは不安そうに待っている。
外国人患者への対応は、英語力そのものより「どの場面で何を確認するか」を整理しておくことで負担が大きく下がります。この記事では、受付から退院までを5つの場面に分け、それぞれで必要な確認事項と英語フレーズを通しで並べました。言葉が通じないときに使える手段と、院内で事前に準備しておくとよいものも扱います。
- 外国人患者の対応で困りやすい5つの場面
- 受付から退院までの場面別の確認事項と英語フレーズ
- 言葉が通じないときに使える手段
- 院内で事前に準備しておくとよいもの
この記事のもくじ
外国人患者の対応で看護師が困る5つの場面
実際に困りやすい場面は、次の5つに整理できます。
| 場面 | 主な課題 | 優先して確認すること |
|---|---|---|
| 受付・問診 | 基本情報と受診理由の確認 | 症状・既往・アレルギー・保険 |
| 症状の聞き取り | 痛みの性質や程度の表現 | 部位・いつから・どんな痛み |
| 検査・処置の説明 | 同意の取得 | 理解できているかの確認 |
| 入院中の案内 | 生活ルールと食事 | 宗教・文化上の制約 |
| 会計・退院 | 費用と次回の説明 | 支払い方法・受診の継続 |
このなかで最も注意が必要なのが3つ目の同意です。説明した内容を相手が理解しているかどうかの確認が不十分なまま進むと、後にトラブルにつながる可能性があります。
また、4つ目の宗教・信条や生活習慣に関する希望は、国籍にかかわらず個別に確認する項目です。外国人患者だから確認する、日本人患者だから確認しない、という分け方はしません。食事の制限や、処置の際の配慮が必要な場合があります。
場面1: 受付・問診で確認すること
まず患者の状態を確認し、緊急性が疑われる場合は院内の対応手順を優先してください。以下は、通常の問診を進められる状態である場合の確認例です。
順番を固定しておくと、慌てずに進められます。
- 患者の状態の確認(緊急性が疑われないか)
- 希望する言語と、通訳が必要かどうかの確認
- 氏名・生年月日の確認
- 受診の理由(主訴)
- アレルギーの有無
- 服用中の薬
- 既往歴
- 保険の有無
英語が通じるかどうかは、見た目や国籍では判断できません。最初に希望する言語を確認し、英語以外を希望する場合や理解が難しそうな場合は、院内の手順に沿って通訳の手配を検討してください。
What language would you prefer? Would you like an interpreter?
どの言語がご希望ですか。通訳をご希望されますか。
使うフレーズを挙げます。
May I have your name and date of birth, please?
お名前と生年月日を教えていただけますか。
What brings you in today?
本日はどうされましたか。
Do you have any allergies to medicine or food?
薬や食べ物のアレルギーはありますか。
Are you taking any medications right now?
現在お飲みの薬はありますか。
Have you had any surgeries or major illnesses before?
これまでに手術や大きな病気をされたことはありますか。
Do you have health insurance or travel insurance?
健康保険または旅行保険はお持ちですか。
アレルギーは必ず確認する
アレルギーの確認は、聞き逃しが患者の安全に直結する項目です。相手が首を振るだけで済ませず、言葉で確認してください。
「ないですね」と確認する形(否定疑問)は、頷きの意味が取りにくくなります。確認できた内容を、こちらから具体的に復唱する形にしてください。
Let me confirm what you told me: no allergies to medicines, and no allergies to foods. Is that correct?
確認させてください。お薬のアレルギーはなし、食べ物のアレルギーもなし、ということで合っていますか。
アレルギーがある場合は、原因になったものと、どのような反応が出たかまで確認して記録します。
What happens when you take it? For example, a rash, swelling, or trouble breathing?
それを使うとどうなりますか。例えば発疹、腫れ、呼吸のしにくさなどはありますか。
薬品名が出た場合は、必ず書いてもらうか、綴りを確認します。発音だけでは取り違える可能性があります。
受付の対話例
単独のフレーズを並べるだけでは、相手の返答を受けてどう続けるかが練習しにくくなります。以下は練習用の対話例です。
看護師: Do you have any allergies to medicine or food?
薬や食べ物のアレルギーはありますか。
患者: I think… penicillin? I’m not sure.
ペニシリン、だと思います。はっきりしませんが。
看護師: Thank you. You’re not certain, so I’ll record it as a possible penicillin allergy. Could you write down the name as you remember it? And what happened when you took it?
ありがとうございます。はっきりしないということなので、ペニシリンのアレルギーの可能性として記録します。覚えている綴りで書いていただけますか。また、使ったときにどうなりましたか。
患者の返答が不確かな場合、確かな情報として記録しないことが重要です。不確かであること自体を記録し、院内の手順に沿って確認を続けてください。
受付での声かけと対応の流れは
で、問診票に使う英語表現は でそれぞれ扱っています。場面2: 症状と痛みの聞き取り
症状の聞き取りでは、確認する要素があらかじめ決まっています。要素を順に埋めていく形にすると、聞き漏らしが減ります。
| 確認する要素 | 質問 |
|---|---|
| 部位 | Where does it hurt? |
| いつから | When did it start? |
| 痛みの性質 | What kind of pain is it? |
| 強さ | On a scale of zero to ten, how bad is the pain? |
| 変化する条件 | Does anything make it better or worse? |
| 他の症状 | Do you have any other symptoms? |
痛みの性質を尋ねる質問には、選択肢を添えると答えやすくなります。
Is it a sharp pain, a dull ache, or a burning feeling?
鋭い痛みですか、鈍い痛みですか、それとも焼けるような感じですか。
強さの確認では、0から10の尺度が広く使われています。尋ねるときは、尺度の両端が何を意味するかを先に伝え、その意味が伝わっているかを確認してから数字で答えてもらいます。数字だけで理解の差がなくなるわけではありません。
Zero means no pain, and ten means the worst pain you can imagine.
0が痛みなし、10が想像できる最も強い痛みです。
質問と説明で尺度の範囲が食い違うと、答えも記録も混乱します。0〜10で尋ねると決めたら、記録まで同じ範囲でそろえてください。
症状を表す英語表現は
で詳しく扱っています。場面3: 検査・処置の説明と同意
この場面では、①必要な説明をする ②相手が理解したことを確認する ③本人が実施を希望・了承しているかを確認する、の3つを分けて行います。理解の確認と同意の確認は別のものです。内容を理解していることが確かめられても、それだけで実施への同意が得られたことにはなりません。
また、誰が説明し、誰が同意を取得するかは処置の内容と院内の役割分担によって決まります。看護師が補足説明を行う場面と、担当者が説明して同意を取得する場面を混同しないよう、院内の手順に従ってください。
説明の流れは「何をするか → なぜ必要か → どのくらいかかるか → 何が起きるか」の順が伝わりやすい形です。
We’re going to take a blood sample.
これから採血を行います。
This is to check for infection.
感染の有無を確認するためです。
It will take about five minutes.
5分ほどで終わります。
You may feel a small prick.
少しちくっとするかもしれません。
理解を確認する
「Do you understand?(分かりましたか)」という聞き方だと、実際には理解していなくても頷いてしまうことがあります。相手の言葉で説明してもらう形にすると、理解の程度が確認できます。
Could you tell me in your own words what we’re going to do?
これから何をするか、ご自身の言葉で教えていただけますか。
Do you have any questions before we start?
始める前に、何かご質問はありますか。
理解を確認したあと、実施の意思を別に確認します。
Are you willing to have this procedure now?
この処置を今受けていただくことに、ご了承いただけますか。
同意が必要な処置では、書面での同意取得の手順が院内で定められている場合があります。英語での説明と併せて、所定の手順に従ってください。
検査の説明で使う英語表現は
で、同意を取る場面の英語は でそれぞれ扱っています。場面4: 入院中の生活案内
入院時には、生活に関する案内が必要になります。日本人患者への案内に加えて、確認したい項目があります。
これらは国籍で判断せず、患者ごとに確認してください。
- 食事の制限:宗教上・信条上の制約(豚肉、牛肉、アルコール、菜食など)
- 宗教上の習慣:礼拝の時間や場所の必要性
- 同性のスタッフによる対応の希望:処置や清潔ケアの場面
- 家族の付き添い:面会や付き添いに関する考え方の違い
Are there any foods you cannot eat for religious or personal reasons?
宗教上またはご自身の考えで、召し上がれない食べ物はありますか。
Would you prefer a female staff member for this procedure?
この処置は女性のスタッフのほうがよろしいですか。
生活案内で使う基本のフレーズも挙げます。
Meals are served at eight, twelve, and six.
食事は8時、12時、18時にお出しします。
Please press this button if you need help.
お困りのときは、このボタンを押してください。
Visiting hours are from 2 p.m. to 8 p.m.
面会時間は午後2時から午後8時までです。
入院時に使う英語表現は
で扱っています。場面5: 会計・退院時の説明
退院時に伝える内容は、次回の受診、薬の飲み方、注意すべき症状の3つが中心になります。以下は文型の例です。服薬の回数・タイミング・再受診の条件は、実際の処方内容と退院指示を確認して当てはめてください。記事の例をそのまま伝えないでください。
Please take this medicine [times per day], [when to take it].
この薬は[1日◯回]、[飲むタイミング]に飲んでください。
Your doctor would like to see you again on [date] at [time].
担当医から、[日付]の[時刻]に再度受診いただくようお話がありました。
Your doctor said to come back if [the condition your doctor specified].
[担当医が指定した状態]になった場合は、再度受診してくださいとのことです。
If you have severe pain or difficulty breathing, please go to the emergency room right away.
強い痛みや呼吸のしづらさがある場合は、すぐに救急外来を受診してください。
再受診の条件を「熱が何日続いたら」のような一律の日数で伝えると、それまでは待ってよいと受け取られることがあります。患者ごとの指示を確認して伝えてください。
次回受診の確認と、多職種への引き継ぎ
次回の予約は、日時・場所・持ち物まで伝えて、相手の言葉で確認します。
看護師: Your next appointment is on Monday, June 10, at 10 a.m., at the outpatient clinic on the second floor. Could you tell me the date and time you have?
次回のご予約は6月10日月曜日の午前10時、2階の外来です。お聞きになった日時を教えていただけますか。
患者: June 10, ten in the morning, second floor.
6月10日、午前10時、2階ですね。
また、対応した内容は次の担当者へ引き継ぎます。受付・看護師・医師・薬剤師・通訳のそれぞれに必要な情報が伝わるよう、次の4点を記録してください。
- 希望する言語と、通訳を利用したかどうか(利用した場合はその手段)
- 確認済みの事項:アレルギー、服用中の薬、宗教・信条上の希望など
- 未解決の事項:不確かなまま残っている情報(「ペニシリンの可能性あり・未確定」など)
- 説明した内容と、理解・同意の確認状況
費用の説明
保険の適用外になる場合、費用について事前に伝えておく必要があります。会計の段階で初めて金額を知ると、支払いをめぐるトラブルにつながることがあります。
Your insurance may not cover this treatment. Please check with the front desk.
この治療は保険が適用されない可能性があります。受付でご確認ください。
We accept cash and credit cards.
現金とクレジットカードがご利用いただけます。
会計の場面で使うフレーズは
で扱っています。言葉が通じないときに使える手段
英語も通じない場合や、専門的な説明が必要な場合には、別の手段を使います。
| 手段 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 医療通訳 | 説明と同意、重要な意思決定 | 手配に時間がかかる場合がある |
| 電話・映像通訳 | その場での対応が必要な場面 | 事前の契約と手順の確認が必要 |
| 翻訳アプリ | 簡単な確認、日常の案内 | 医療用語の訳の正確さに限界がある |
| 指差しシート | 症状や部位の確認 | 複雑な説明には向かない |
| 筆談・図示 | 数値、身体部位の確認 | 相手の識字状況による |
重要な意思決定を伴う場面では、翻訳アプリのみに頼ることは避けてください。訳が正確でなかった場合の影響が大きいためです。院内で医療通訳の手配手順が定められている場合は、それに従います。
一方、日常的な案内や簡単な確認では、翻訳アプリや指差しシートが有効です。場面によって手段を使い分ける形が現実的です。
院内で準備しておくとよいもの
その場で対応する力を上げることと並行して、事前の準備で負担を下げる方法があります。院内で用意しておくとよいものを挙げます。
- 問診票の多言語版:受付での確認事項を書面で済ませられます
- 指差しシート:症状・身体部位・痛みの尺度を図で示すもの
- 説明用の定型文:頻度の高い検査・処置の説明を書面で用意
- 通訳の手配手順:誰がどこに連絡するかを明文化
- 対応記録の様式:使用した手段と確認内容を残す
5つ目の記録は見落とされやすい項目です。どの手段で説明し、何を確認したかを記録に残しておくことは、継続的な対応と、後の確認の両面で必要になります。
院内での英語対応の体制づくりについては
でも扱っています。外国人患者の対応についてよくある質問
Q. この記事の英語だけで対応を進めてよいですか
いいえ。アレルギー・薬剤名と用量・検査や処置の同意・退院後の服薬や受診の説明・急変を疑う症状については、定型フレーズだけで進めないでください。これらは取り違えがそのまま患者の安全に関わります。聞き取った内容は必ず復唱して相互に確認し、数字や薬剤名は書いて示す、院内の規定に沿って医療通訳や電話通訳を手配する、判断に迷う場面は上位者に確認する、という手順を併用します。語学の練習と、患者対応の安全確保は別のものとして扱ってください。
Q. 英語が話せないスタッフでも対応できますか
指差しシートや翻訳アプリを使えば、基本的な確認は可能です。ただし、説明と同意が必要な場面では、通訳の手配など院内で定められた手順に従ってください。
Q. 翻訳アプリだけで対応してもよいですか
日常的な案内であれば有効ですが、重要な意思決定を伴う説明では訳の正確さに限界があります。同意取得の場面や、アレルギー・薬剤名と用量の確認では、通訳の利用を検討してください。
Q. 英語以外の言語の患者にはどう対応しますか
多言語対応の問診票、指差しシート、電話・映像通訳の手段が中心になります。使用言語を最初に確認し、対応可能な手段を選ぶ流れになります。見た目や国籍で使用言語を判断しないでください。
Q. 何から準備すればよいですか
まずは受付・問診で確認する項目の英語フレーズを固定することをおすすめします。どの診療科でも通る場面なので、ここが決まると以降の場面に進みやすくなります。
まとめ|場面ごとに確認する項目を固定しておく
外国人患者への対応は、英語力そのものより、場面ごとに確認する項目を決めておくことで負担が下がります。受付では患者の状態と希望言語の確認から始め、症状聞き取りでは6要素を順に埋めるというように、順番を固定しておくと慌てずに進められます。
特に注意したいのは、アレルギーの確認と、理解の確認・同意の確認を分けて行うことです。頷きだけで判断せず、こちらから復唱して確認する習慣をつけてください。重要な意思決定を伴う場面では、翻訳アプリのみに頼らず、院内で定められた通訳の手配手順に従ってください。
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