【更新:2021年10月29日】
イタリアは、ローマ・ヴェネツィア・フィレンツェ・ミラノなど、人気の観光地がたくさんある国。
世界遺産をはじめ、街並みの美しさや芸術、グルメまで、数えきれないほどの見どころがあるのが魅力です。
華やかなイメージが強いイタリアですが、実は日本と同じく高齢化がどんどん進み、在宅ケアの需要が高まっています。「新型コロナ流行による医療崩壊」のニュースが記憶に新しい方も多いでしょう。
また、精神科領域の医療が発達していることから、ケアの知識を深めたい看護師から注目されている国でもあるのです。
この記事では「海外で看護師として働きたい」という人へ向けて、イタリアの医療・看護師事情、日本との違いについて解説します。
この記事のもくじ
イタリアの医療事情
イタリアは、日本同様に高齢化が進んでいる国です。
高齢者に対する医療や、精神科領域の医療が発達しているところが特徴です。
また、観光客が多いほか、日本からもたくさんの人がイタリアに移り住んでいます。
海外に住む日本人調査のうち、イタリアは人気50か国にランクイン。18位(14,937人)と、上位層に位置しています。 (引用元:海外在留邦人数調査統計2019版|政府統計の総合窓口)
イタリア国籍以外の人が病院にかかる、という機会も多くあるでしょう。
そうしたイタリアの医療は、いったいどのような事情なのかについて、詳しく紹介します。
イタリアの医療は、世界的に評価が高い
世界の五大医学誌のひとつとして有名なランセット(THE LANCET)の、「HAQインデックス(ヘルスケア・アクセス・アンド・クオリティー・インデックス)」から、世界195か国の医療水準のランキングをみてみましょう。
イタリア:9位、日本:12位 (引用元:THE LANCET 2016年のデータ)
イタリアの医療水準は、世界で第9位だと評価されています。ほかのヨーロッパの先進国とも比較しても、大差ないほどの医療水準だということがわかります。
ちなみに、日本は世界で第12位。イタリアの医療は、日本以上の水準だと、世界的に評価されているのです。
日本に次ぎ、高齢化が進むイタリア
世界170ヵ国以上・1,600種類以上の国際統計を行うGLOBAL NOTEの資料をみてみましょう。
(引用元:GLOBAL NOTE)
日本は、世界の高齢化率ランキングでダントツの第1位。総人口に対して、65歳以上人口の比率が一番大きい国となっています。
日本は高齢者が多い国なんだろうなというイメージがあっても、群を抜いて世界第1位だということは、意外と知らない人も多いようです。
そんな日本に次ぐ第2位は、実はイタリア。日本と同じく、どんどん高齢化が進んでいます。
緩和ケアの6割は在宅ケア
イタリアは、高齢化率が世界で2番目に高い国です。
高齢化が進む中だと、緩和ケアの重要性が特に問われるようになります。
緩和ケアの内訳:施設基盤のホスピスが36%、在宅ケアが64%。 (引用元:イタリアにおける看取りの現状とその文化的・宗教的背景|J-Stage)
イタリアでは、緩和ケアの64%を在宅ケアで行っています。
QOL(生活の質)の改善に加え、医療費を考慮すると、在宅ケアを大切にすることがポイントになるでしょう。
高齢化率第1位の日本は、医療水準が世界的に高く評価され、緩和ケアを在宅で行うイタリアから学ぶことが多くあります。
医師や看護師はもちろん、自宅で親を介護する人々にとって、イタリアの在宅ケアの方法を知ることは、緩和ケアを必要とする高齢者のQOL向上の手がかりとなるはずです。
精神保健医療の地域ケアが注目されている
イタリアは、脱施設化(deinstitutionalization)という、精神病院を解放しようという運動が実施されました。
1999年には、イタリア保健省が、国内の公立精神病院が完全になくなったことを宣言しました。
これを背景に、かかりつけ医がいる地域病院での精神保健医療が発達しはじめたのです。
地域の精神保健センターで、いつでも受診できるようになり、専門スタッフによる自宅への訪問活動なども行われています。
同時に、都市部と地方で精神保健医療の手厚さにも違いがあるなど、様々な問題を抱えているという現状もあります。
ただ、以前と比較して地域でのケアの重要性が問われていることは事実。
イタリアは、地域の病院医師や開業医、病院勤務の看護師など、地域での精神保健医療を行うための努力を重ねている国といえるでしょう。
新型コロナウイルス流行下のイタリア
新型コロナウイルスが世界的に話題になりはじめた2020年3月ごろ、医療従事者のコロナ感染が相次ぎニュースになるという状況がありました。
医療体制への懸念が高まる時期もありましたが、2021年10月末の時点の感染者数ランキングでは12位、ヨーロッパ内では、イギリス、フランス、スペインについで4位となっています。
制度からみるイタリアの医療
イタリアの医療制度は、日本と似ている部分もあれば、大きな違いを感じる一面もあります。
いったい、どこが似ていて、どのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、イタリアの医療保険制度とあわせて、病院の様子について紹介します。
保健医療と自由診療がある
イタリアは、国民皆保険制度を取り入れています。日本であるような国民健康保険に加入すれば、外国人であっても低い医療費で公立病院を受診することができます。
また、私立病院で多いのが、保険外での診療となる自由診療です。
公立病院の特徴とあわせて、私立病院の事情について、外務省が公開しているイタリアの医療事情をみてみましょう。
公立病院の特徴
公立病院はいつも混雑しており、緊急性のない救急受診は待ち時間が長く、手続きが煩雑です。自費診療を行う私立病院は、診察予約制で、英語が通じる事が多く医療環境も良好ですが、軽症~中等症までの疾患への対応に限られます。(中略)一般的に医療費は高額となるため、(死亡時だけでなく)治療費用も十分に補償された海外旅行保険への加入を強く勧めます。 (引用元:世界の医療事情|外務省)
公立病院は、比較的安価に受診できるとはいえ、待ち時間や手続きが多いため、余裕をもった受診が大切です。
また、イタリアでは診療科が細かくわかれている上に、診療科同士の連携があまりスムーズではありません。
そのため、一度の診察で済まないケースが多々あるようです。
私立病院・プライベートクリニックの特徴
私立病院では、英語が使えるなど言語面の便利さに加え、医療設備も充実しているところが多いものの、どうしても医療費が高額になってしまいます。
また、私立病院であっても、症状次第では対応が難しいということも。
また、完全予約制のクリニックも市街に多数ありますが、検査設備や入院環境がないという場合もあるそうです。
せっかくクリニックを予約しても、別日にほかの施設で受診ということもあるでしょう。
イタリアの看護師の給与・特徴
イタリアは、高齢化や国民皆保険制度といった面で、日本と似ている部分がありましたね。
医療事情や制度について確認したので、次は看護について詳しくみていきましょう。
給与や、イタリアの看護師試験、特徴についても触れているので、イタリアで看護師として働きたい人はぜひ参考にしてください。
イタリアの看護師の給与
イタリアの看護師の給与についてみていきましょう。
イタリア看護師の平均給与:月額2,880ユーロ(約35万円) 最低平均で月額1,410ユーロ(約17万円)、最高平均で月額4,500ユーロ(約55万円) (引用元:Nurse Average Salary in Italy 2020)
こちらの給与平均は、残業代や土日出勤の手当ても含まれた額であることが想定されます。
看護師の給与が高めなのか安めなのか、イタリアの一般職の平均給与を参考に比較してみましょう。
イタリアの平均給与:月額3,650ユーロ(約44万円) 最低平均で月額920ユーロ(約11万円)、最高平均で月額16,300ユーロ(約198万円) (引用元:Average Salary in Italy 2020)
平均給与をみると、看護師の方が低くなっています。
ただ、最低月収の平均をみると、看護師の方が高めです。
イタリアで看護師になるためには、3年制の大学を卒業しなくてはなりません。
看護師になるまでの学費の確保、勉強を重ねる努力、仕事中のリスクなどを考慮すると、看護師の給与が少し低めなのではないかという印象です。
一度就職したらほぼ辞めない
イタリアの看護師は、日本と少し違う特徴があります。
それは、新人看護師が仕事を探そうとしても難しいというところです。
看護師になっても中々仕事がありません。看護師の仕事に就きたい人は沢山いますが、病院の求人が少ないこと、また一度就職出来たら殆どの看護師は辞めませんのでポジションが空きません。 (引用元:シンカナース)
一度看護師の職に就くと、ずっと同じ病院で働き続けるケースが多いようです。
一方、日本では、看護師求人が豊富。
一度退職したとしても、再就職口となる病院やクリニックがたくさんあり、派遣という働き方もあります。
日本で、看護師として就職に困るということはまずないでしょう。
このように、日本とイタリアでは、就職面で大きな違いがあります。
新人看護師は就職難、待遇が良くないことも
イタリアでは、新人看護師だと、就職のハードルが高いということがわかりました。
就職のハードルの高さ以外にも、実はハードな面があるようです。
若い看護師にとっては、勤務するチャンスが少ないので、パートタイムや一時的な雇用のような形になってしまいます。そうすると、今日働いていても明日クビになるかもしれない。 (引用元:シンカナース)
少ないチャンスの中、熱心に取り組んだとしても、安定という保障がないということは、かなりのストレスになるはず。
イタリアでベテラン看護師として働くためには、不安と戦いながら地道に継続することが大切なポイントとなるでしょう。
日本人がイタリアで看護師になるためには
日本人が、イタリアで看護師として働くためには、いったいどのような方法があるのでしょうか。
日本での看護師資格を使って、イタリアで看護師を目指している人は、わずかではありますが存在します。
そうした人たちの姿を追いながら、必要な試験や実情について紹介していきましょう。
日本の看護師資格を使って申請
イタリアで、日本の看護師資格をいかして働くためには、免許の書き換えと試験が必要です。
イタリアでは、IPASVIという、イタリア看護師・保母・保健師会が存在します。
IPASVIとは、イタリア看護師が、看護師籍を登録するところです。
イタリアで看護師として働く場合は、このIPASVIに登録されていることが必須条件となるケースがほとんど。
日本人がイタリアで働く場合も同様で、IPASVIに登録を済ませなくてはなりません。
そのためには、日本の厚生労働省や病院、学校から必要書類を集めることが第1ステップです。
日本の看護師資格を証明する書類に加え、大学卒業を証明する等価証明書:Dichiarazione di Valore(日本で教育を受けた証明)を取り寄せる必要があります。
その他の必要書類に関しては、個人の経験・経歴にあわせて、「Ministero della Salute」という、イタリアの健康省にあたるWebサイトで、適宜情報を確認しながら進めていきます。
ただ、イタリア語が堪能でないと、Webサイトに記載してある内容の理解が難しいこともあり、書類集めの時点で苦労するとの声があります。
語学試験と看護師実技試験に合格する
書類を集めて、イタリアで申請を行ったあとは、2年以内に試験を受けて合格しなくてはなりません。
試験はイタリア語で行われ、筆記と実技の2つの試験があり、試験はイタリア語で行われます。
病院勤務するとしても、一部の私立病院を除いて、イタリア語でのコミュニケーションとなるため、イタリア語のスキルはほぼ必須といえるでしょう。
申請と試験に合格して、はじめてIPASVIに登録することができます。
そうして、晴れてイタリアで看護師として働けるようになる、という流れです。
申請と試験がかなり大変
日本の看護師資格をいかしてイタリアで看護師として働きたい場合、手間や時間がかかってしまうことを考慮しましょう。
免許書き換えの申請では、必要書類の理解から、すべての書類を集めるまでの労力。
申請後は、イタリア語での試験が待っています。
イタリア語の勉強を含め、看護師として働く前に必要な工程がたくさんあるため、余裕をもって準備を進めていくことが大切です。
まとめ
イタリアの医療や看護師について、紹介しました。
イタリアは、精神保健医療分野での学びが多く、研修や留学をはじめ、看護師として働きたいというニーズが高い国です。
実際に日本の看護師資格をいかして働く方法はあるものの、道のりは長め。
ただ、実際にイタリアでの看護師勤務を希望している人は確かにいて、挑戦を続けています。
イタリアで働くにはイタリア語が必要ですが、英語ができることでも情報収集の範囲は広がります。
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英語ができるだけでも海外で看護師として働く幅が広がるのは間違いありません。
高齢化や制度面で、日本と似ている部分を持つ、イタリア。
イタリアでの医療・看護の経験は、きっと生涯を通じて貴重な経験をもたらしてくれることでしょう。