日本で専門医資格を持つ医師がオーストラリアで働く方法——真っ先に思い浮かぶのはAMC試験かもしれませんが、AMCのStandard Pathwayは研修医(Intern)からやり直す必要があり、キャリアのある専門医にとっては現実的でないケースが多いです。
実は、すでに他国で専門医資格を持つ医師にはSIMG(Specialist International Medical Graduate)パスウェイという別ルートが用意されています。さらに2024年10月には審査を大幅に短縮するExpedited Specialist Pathwayが新設され、選択肢が広がっています。一方で「専門医登録は目指さないが、一定期間オーストラリアで臨床経験を積みたい」という場合にはShort Term Training Pathway(最大24ヶ月)という方法もあります。
この記事では、SIMGパスウェイの全体像からShort Term Training Pathwayとの違い、英語要件、費用、申請の流れまでを解説します(2026年3月時点の情報に基づきます)。
この記事の概要
- SIMGパスウェイの3つのルート(Standard / Expedited / Competent Authority)
- Short Term Training Pathway(最大24ヶ月の限定勤務)の仕組み
- 各パスウェイの英語要件(IELTS / OET)
- 費用・期間・申請の流れ
- どのルートが自分に合っているかの判断基準
この記事のもくじ
SIMGパスウェイとは
SIMG(Specialist International Medical Graduate)パスウェイは、海外で専門医の訓練と試験を修了した医師が、オーストラリアで専門医として登録するためのルートです。AMCのStandard Pathway(研修医からやり直し)とは異なり、すでに持っている専門医資格をオーストラリアの基準と照合し、差分を埋める形で登録を目指します。
Medical Board of Australiaが管轄しており、以下の3つのルートがあります。
1. Standard Specialist Pathway(従来型)
最も一般的なSIMGルートです。該当する専門分野のAustralian Specialist College(例:RACP, RACS, ANZCA等)が、申請者の資格・経験をオーストラリアの専門医基準と比較評価します。
- Collegeが「Substantially Comparable(概ね同等)」または「Partially Comparable(部分的に同等)」と判定
- 判定結果に応じて、3〜24ヶ月の監督付き臨床研修(supervised practice)が課される
- 研修中にWorkplace-Based Assessment(WBA)を受け、合格すればFellowship(専門医資格)を取得
- 審査は厳しくなる傾向にあり、「Partially Comparable」判定で12ヶ月以上の研修を求められるケースが増えている
2. Expedited Specialist Pathway(2024年10月〜新設)
2024年10月にスタートしたファストトラックです。Medical Boardが指定する「Accepted qualifications list」に該当する海外専門医資格を持っていれば、Collegeの個別評価を経ずに直接Boardに登録申請できます。
2026年3月時点で対象となっている専門分野:
- General Practice(総合診療)
- Anaesthetics(麻酔科)
- Psychiatry(精神科)
- Obstetrics and Gynaecology(産婦人科)
- Paediatrics and Child Health – General Paediatric(一般小児科)
- Physician – General Medicine(一般内科)
今後、他の専門分野も順次追加される予定です。要件は6ヶ月の監督付き研修 + Cultural Safety教育 + WBAで、Standard Pathwayより大幅に短期です。
3. Competent Authority Pathway
特定の国(イギリス・アイルランド・カナダ・アメリカ)の専門医資格保有者向けの簡略化ルートです。日本の専門医資格はこのルートの対象外ですが、参考として記載します。
Short Term Training Pathway(最大24ヶ月の限定勤務)
SIMGパスウェイとは別に、専門医登録を目指さず、最大24ヶ月の限定的な臨床研修をオーストラリアで行う方法があります。これがShort Term Training in a Medical Specialty(STT)Pathwayです。
STTの特徴
- 目的:オーストラリアの医療現場で短期間の臨床経験・トレーニングを積むこと
- 期間:最大24ヶ月
- 登録種別:Limited Registration(限定登録)またはProvisional Registration
- 専門医資格:取得できない(Fellowshipは付与されない)
- 終了後:原則として母国に帰国するか、他のパスウェイに切り替えて登録を目指す
STTが現実的な選択肢になる人
- SIMGのStandard Pathwayの審査が厳しく、長期の監督研修が見込まれる場合
- まずオーストラリアの医療現場を経験してから、永住・専門医登録の判断をしたい場合
- 帰国後のキャリアに活かすため、海外臨床経験を積みたい場合
- 年齢やキャリアステージ的に、長期間の再訓練が難しい場合
申請の流れ
- オーストラリアの研修ポスト(受入先病院)を確保する
- 該当する専門医College(例:RACP, RACS等)にAAMC-30フォームで適性評価を申請
- Collegeから「STTに適している」との評価を得る
- Medical Board of Australiaに限定登録を申請
- ビザ(通常Subclass 457/482の短期就労ビザ)を取得
SIMGパスウェイとSTTの比較
| 項目 | SIMG Standard Pathway | SIMG Expedited Pathway | Short Term Training |
|---|---|---|---|
| 目的 | オーストラリアで専門医登録 | 同上(ファストトラック) | 短期臨床研修(最大24ヶ月) |
| 専門医資格(Fellowship) | 取得可能 | 取得可能 | 取得不可 |
| 監督研修期間 | 3〜24ヶ月(College判定) | 6ヶ月 | 最大24ヶ月 |
| 対象専門分野 | 全分野 | 6分野(2026年3月時点、順次拡大) | 全分野 |
| 審査の厳しさ | 年々厳格化傾向 | 資格リストに該当すれば比較的スムーズ | 受入先が確保できれば比較的スムーズ |
| 英語要件 | IELTS 7.0 or OET B | IELTS 7.0 or OET B | IELTS 7.0 or OET B |
| 終了後 | Specialist Registration(永続的) | 同上 | 帰国 or 他パスウェイに切替 |
英語要件:全パスウェイ共通でIELTS 7.0 or OET Bが必要
SIMGパスウェイもSTTも、AHPRA(Australian Health Practitioner Regulation Agency)の英語要件を満たす必要があります。2026年3月時点の要件は以下の通りです:
| 試験 | Overall | 各セクション |
|---|---|---|
| IELTS Academic | 7.0 | R 7.0 / L 7.0 / S 7.0 / W 6.5(2025年3月〜Writingが7.0→6.5に緩和) |
| OET | Bグレード(350点) | 全セクションBグレード以上 |
| PTE Academic | 65 | 全セクション65以上 |
免除条件:中等教育と専門医訓練が英語で行われた国での修了者は、英語試験が免除される場合があります。日本での教育は対象外のため、日本の専門医は英語試験の受験が必須です。
IELTSの詳しい対策は看護師・医師のIELTS対策ガイド、OETについてはOET試験の勉強法をご覧ください。
英語力は試験スコアだけでは足りない
IELTSやOETのスコアをクリアしても、オーストラリアの臨床現場で求められる英語力はそれ以上です。SIMGの監督研修やSTTでは、患者との問診・インフォームドコンセント・多職種カンファレンス・カルテ記載を全て英語で行う必要があります。スコアはあくまで最低ラインであり、臨床英語(Clinical English)の実践力がなければ現場で苦労します。
AMC試験の医療英語対策についてはAMC試験の医療英語対策ガイドで詳しく解説しています。
費用の目安
| 費目 | 金額(AUD) |
|---|---|
| 英語試験(IELTS or OET) | 475〜587 |
| AHPRA仮登録申請料 | 約720 |
| AHPRA仮登録料 | 約506 |
| Specialist College評価料 | 3,000〜10,000(Collegeにより異なる) |
| ビザ申請料(Subclass 482等) | 3,210〜4,910 |
| 合計目安 | 約8,000〜17,000 AUD(約80〜170万円) |
上記に加え、渡航費・住居費・生活費が別途必要です。スポンサーシップ(雇用主による支援)が得られるケースもあるため、受入先病院との交渉が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q: 日本の専門医資格はSIMGパスウェイで認められますか?
A: 日本の専門医資格はStandard Specialist Pathwayで申請可能です。ただし、Expedited Specialist Pathwayの「Accepted qualifications list」には2026年3月時点で日本の資格は含まれていません。Standard Pathwayでは各Specialist Collegeが個別に資格を評価し、監督研修の期間を決定します。
Q: SIMGとShort Term Training、どちらを先に検討すべきですか?
A: 長期的にオーストラリアで専門医として働く意思がある場合はSIMGパスウェイを先に検討してください。ただし、Collegeの評価結果で長期の監督研修が見込まれる場合や、まずオーストラリアの医療現場を経験してから判断したい場合は、Short Term Training Pathwayから始める方が現実的です。STTで実績を積むことで、その後のSIMG申請にもプラスになります。
Q: 英語のスコアはいつまでに取得すればいいですか?
A: AHPRAへの登録申請時に、申請日から2年以内のスコアが必要です。IELTSは2回の受験スコアを12ヶ月以内に合算できるため(2025年3月〜)、一度に全セクション7.0を取れなくても、Writing 6.5を先に確保してから他セクションを揃える戦略も可能です。
まとめ:自分に合ったパスウェイを選ぶことが最初の一歩
オーストラリアで専門医として働くルートは一つではありません。
- 長期的に専門医登録を目指す → SIMG Standard Pathway(またはExpedited Pathway対象ならファストトラック)
- まず2年間の臨床経験を積む → Short Term Training Pathway
- AMC Standard Pathway(研修医からやり直し) → キャリア初期の医師向け
どのルートを選んでも共通して必要になるのが英語力です。就労先としてArea of Need地域を検討している方は「Area of Needとは?オーストラリアで医師として最も就職しやすいルート」、採用面接の準備については「PESCI面接とは?オーストラリアIMGの採用面接を突破する臨床英語対策」も合わせてご覧ください。IELTS 7.0 / OET Bのスコアはもちろん、臨床現場で患者や同僚と英語でコミュニケーションできる実践力が求められます。
HLCAでは、医師・看護師向けにIELTS・OET対策と臨床英語(Clinical English)の指導を行っています。オーストラリアでの就労を見据えた医療英語の学習プランを、まずは無料カウンセリングで一緒に設計してみませんか。
オーストラリアで専門医を目指すなら、HLCAの医療英語留学
HLCAは、セブ島を拠点とした医療英語専門の語学学校です。医師・看護師をはじめとする医療従事者向けに、臨床現場で通用する英語力を短期集中で身につける留学プログラムを提供しています。
SIMG・STTどのパスウェイを選んでも、臨床現場では試験スコア以上の英語力が必要です。同僚との申し送り、患者への説明、カルテ記載——すべてを英語でこなす実践力は、IELTS/OETの勉強だけでは十分に身につきません。HLCAの留学では、臨床場面を想定したロールプレイ中心のカリキュラムで、渡航前から「使える英語力」を鍛えることができます。
オーストラリアでの就労に向けた医療英語の学習プランについて、まずは無料カウンセリングでお気軽にご相談ください。
監修:海仲 由美(Yumi Uminaka)
HLCA代表/医療英語教育者・カリキュラム開発責任者
医師・看護師・薬剤師など医療従事者向け医療英語教育を専門とし、これまでに延べ3,000名以上の医療従事者への指導・研修を実施。
医療現場で実際に使われる英語表現・患者対応・多職種連携に特化したカリキュラム設計を強みとし、病院・クリニック向け教育プログラムや医療英語教材の開発・監修を多数手がける。
本メディアでは、現場視点と教育専門性の両面から、実践的かつ正確な医療英語情報の監修を行っている。




