オーストラリアでIMG(International Medical Graduate)として働くには、AMC試験や英語試験だけでなく、PESCI(Pre-Employment Structured Clinical Interview)という採用面接を通過する必要があります。PESCIは単なる面接ではなく、臨床シナリオを用いた構造化面接であり、臨床判断力・コミュニケーション能力・英語力が総合的に評価されます。
日本語での情報がほとんどないため、何をどう準備すればよいか分からないという声が多いのが現状です。この記事では、PESCIの形式・評価基準・頻出シナリオ・具体的な準備方法を解説します(2026年3月時点の情報に基づきます)。
この記事の概要
- PESCIとは何か(Pre-Employment Structured Clinical Interview)
- 面接の形式:3名のパネル・5つの臨床シナリオ・60〜90分
- 評価される4つの能力(臨床判断・コミュニケーション・文化的能力・倫理観)
- よく出るシナリオ例と回答のコツ
- 準備方法:模擬面接・臨床英語のロールプレイ練習
この記事のもくじ
PESCIとは:IMGのための構造化臨床面接
PESCI(Pre-Employment Structured Clinical Interview)は、IMGが特定のポジションで安全に診療できるかどうかを評価するための構造化面接です。Medical Board of Australiaが管轄し、RACGP(Royal Australian College of General Practitioners)やACRRM(Australian College of Rural and Remote Medicine)などが認定プロバイダーとして実施しています。
PESCIが必要な人
- Competent Authority PathwayまたはStandard PathwayでAMC MCQ試験に合格したIMG
- オーストラリアの一般診療(General Practice)のポジションに就こうとしているIMG
- Provisional Registration(仮登録)またはLimited Registration(限定登録)を申請するIMG
注意:Specialist Pathway(SIMGパスウェイ)で専門医登録を目指す場合は、各Specialist Collegeが別途評価を行うため、PESCIは不要です。SIMGパスウェイについてはオーストラリアで専門医として働く方法をご覧ください。
PESCIの有効期限
PESCIの結果は1年間有効です。期限が切れた場合は再受験が必要になります。
PESCIの面接形式
PESCIは通常の就職面接とは大きく異なります。構造化された臨床シナリオを用いて、応募者の知識・スキル・臨床経験・属性を客観的に評価します。
基本的な形式
- 時間:60〜90分
- 面接官:3名以上(うち少なくとも2名は登録医師。1名はコミュニティメンバーまたは他の医療従事者の場合あり)
- シナリオ数:通常5つの臨床シナリオ
- 形式:各シナリオについて質問に回答する形式(一部ロールプレイを含む場合あり)
- 言語:すべて英語
面接の流れ
面接は以下のような流れで進みます。
- 自己紹介・経歴の確認(5〜10分)
- 臨床シナリオ1〜5の提示と質疑応答(各10〜15分)
- オーストラリアでの診療に関する質問(文化的理解・倫理観)
- 応募者からの質問(任意)
各シナリオは、応募するポジションの職務内容(Position Description)に合わせてカスタマイズされるため、地方の一般診療ポジションであれば、救急対応や慢性疾患管理のシナリオが多くなります。
PESCIで評価される4つの能力
PESCIでは、以下の4つの領域が総合的に評価されます。
1. 臨床判断力(Clinical Knowledge and Skills)
提示された臨床シナリオに対して、適切な鑑別診断・検査計画・治療方針を説明できるかが問われます。日本での臨床経験がそのまま活きる領域ですが、オーストラリアのガイドラインに沿った回答が求められる点に注意が必要です。
- 鑑別診断の優先順位付け
- 適切な検査のオーダー
- 治療計画の策定と根拠の説明
- 患者管理(フォローアップ・紹介の判断)
2. コミュニケーション能力(Communication Skills)
PESCIで最も重要な評価軸の一つです。患者・同僚・他の医療従事者と英語で効果的にコミュニケーションできるかが問われます。一部のシナリオでは模擬患者とのロールプレイが含まれる場合もあります。
- 患者への説明が分かりやすいか
- 共感的な対応ができるか
- 多職種との連携コミュニケーション
- Bad newsの伝え方
3. 文化的能力(Cultural Competence)
オーストラリアは多文化社会であり、先住民(Aboriginal and Torres Strait Islander peoples)の健康格差への理解も重要視されます。
- 多様な文化背景を持つ患者への対応
- 先住民の健康に関する理解
- 文化的な違いによる治療上の配慮
4. 倫理・プロフェッショナリズム(Ethical and Professional Issues)
オーストラリアの医療制度における倫理的問題への対応力が問われます。
- インフォームドコンセントの取得
- 守秘義務と情報開示の判断
- 同僚の不適切な行為への対応(mandatory reporting)
- 患者の自律性(autonomy)の尊重
よく出るシナリオ例と回答のコツ
PESCIで頻出する臨床シナリオのパターンと、回答のポイントを紹介します。
シナリオ1:問診(History Taking)
患者が胸痛・腹痛・頭痛などの主訴で来院した設定で、適切な問診を行います。
回答のコツ:
- SOCRATES(Site, Onset, Character, Radiation, Associations, Time, Exacerbating/relieving factors, Severity)のフレームワークを使う
- Red flagsを見逃さない
- 患者の心配事(ICE: Ideas, Concerns, Expectations)を確認する
- 英語での問診フレーズを自然に使えるようにする
シナリオ2:Bad Newsの伝達
がんの診断結果や予後不良の伝達など、困難な会話のシナリオです。
回答のコツ:
- SPIKESプロトコル(Setting, Perception, Invitation, Knowledge, Emotions, Strategy/Summary)を使う
- 患者の感情に寄り添う表現(”I understand this must be very difficult for you”)を使う
- 情報を一度に詰め込まず、段階的に伝える
- サポートリソース(カウンセリング・専門看護師・サポートグループ)を提示する
シナリオ3:インフォームドコンセント
手術や処置のリスク・ベネフィットを患者に説明し、同意を得るシナリオです。
回答のコツ:
- 医学用語を避け、平易な英語(plain English)で説明する
- リスクとベネフィットをバランスよく提示する
- 患者が質問する時間を十分に確保する
- “Do you have any questions?” だけでなく “What concerns do you have?” と聞く
シナリオ4:患者教育(Patient Education)
糖尿病・高血圧・喘息などの慢性疾患管理について、生活指導を行うシナリオです。
回答のコツ:
- Teach-back法(”Can you tell me in your own words what we discussed?”)を使う
- 書面の情報提供(pamphlet)を活用する
- フォローアップの計画を明確にする
- Shared decision makingの姿勢を示す
シナリオ5:倫理的ジレンマ
患者の治療拒否・未成年の同意能力・同僚の不適切行為など、倫理的判断が求められるシナリオです。
回答のコツ:
- Medical Board of Australiaの「Good Medical Practice」ガイドラインを参照する
- 患者の自律性を尊重しつつ、安全を確保するバランスを示す
- 必要に応じて上級医への相談(escalation)を言及する
- mandatory reportingの義務を理解していることを示す
PESCI合格のための準備方法
PESCIの合否は「Satisfactory(合格)」または「Unsatisfactory(不合格)」の2段階で判定されます。合格するための具体的な準備方法を紹介します。
1. Position Descriptionを徹底的に読む
PESCIのシナリオは応募するポジションの職務内容に基づいて作成されます。Position Descriptionに記載されている臨床領域(例:小児科・救急・慢性疾患管理)を重点的に準備しましょう。
2. 模擬面接を繰り返す
PESCIは知識だけでなく、英語でのコミュニケーション能力が問われます。一人で教科書を読むだけでは準備として不十分です。
- 英語話者との模擬面接を最低5回以上行う
- 臨床シナリオを英語で説明する練習を録画して振り返る
- PESCI準備ワークショップ(RDNやIMGSOS等が提供)に参加する
3. 臨床英語のロールプレイ練習
PESCIの本質は臨床英語のロールプレイです。問診・Bad news・インフォームドコンセント・患者教育——これらはすべて、OET Speakingやオーストラリアの臨床現場で求められるスキルと共通しています。
OETのSpeaking対策で身につけたロールプレイスキルは、PESCIにも直接活かせます。OETの準備方法についてはOET試験の勉強法をご覧ください。
4. オーストラリアの医療制度を理解する
- Medicare制度の基本
- PBS(Pharmaceutical Benefits Scheme)
- 先住民の健康格差と「Closing the Gap」政策
- Mandatory reportingの義務
- My Health Record(電子カルテシステム)
PESCIと臨床英語:HLCAでできる準備
PESCIで求められるスキルを分解すると、臨床英語のロールプレイ練習そのものであることが分かります。
- 英語での問診(History Taking)
- Bad newsの伝え方
- インフォームドコンセントの取得
- 患者教育と生活指導
- 多職種カンファレンスでの発言
これらはIELTSやOETのスコアだけでは測れない「現場で通用する英語力」です。HLCAでは、医師向けに臨床英語のロールプレイを中心としたコーチングを提供しています。PESCIの準備としてはもちろん、オーストラリアの臨床現場で即戦力になるための英語力を身につけることができます。
AMC試験の医療英語対策についてはAMC試験の医療英語対策ガイド、SIMGパスウェイについてはオーストラリアで専門医として働く方法をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q: PESCIは何回まで受験できますか?
A: 回数制限はありませんが、1回の結果は1年間有効です。不合格の場合は再度申請・受験が可能です。ただし、同じポジションに対する再受験には、面接プロバイダーの判断で一定期間の間隔が求められる場合があります。準備不足での受験を避け、十分な練習を積んでから臨むことをお勧めします。
Q: PESCIとAMC臨床試験(OSCE)の違いは何ですか?
A: AMC臨床試験は医師としての基本的な臨床能力を評価する国家試験であり、合格するとAMC Certificate(医師登録の前提条件)が得られます。一方PESCIは、特定のポジション・職場に適した臨床能力があるかを評価する採用面接です。AMC試験は医師登録の要件、PESCIは就職の要件と考えてください。AMC試験の詳細はAMC試験の医療英語対策をご覧ください。
Q: PESCIの英語力はどのレベルが必要ですか?
A: PESCIに明確な英語スコア要件はありませんが、面接自体がすべて英語で行われるため、IELTS 7.0〜7.5相当の英語力が実質的に必要です。特にSpeakingとListeningの実践力が重要で、医学用語を正確に使いつつ、患者にも分かりやすく説明できるレベルが求められます。
まとめ:PESCIは臨床英語力の集大成
PESCIは、オーストラリアでIMGとして働くための最終関門の一つです。AMC試験やIELTS/OETをクリアした後に待ち受けるこの面接は、臨床知識を英語で実践的に使える能力を証明する場です。
- PESCIの本質は臨床英語のロールプレイ
- 問診・Bad news・インフォームドコンセント・患者教育が頻出
- オーストラリアの医療制度・文化的理解も問われる
- 模擬面接の繰り返しが合格への最短ルート
HLCAでは、医師向けの臨床英語コーチングを通じて、PESCI対策に直結するロールプレイ練習を行えます。まずは無料カウンセリングで、あなたの現在の英語力と目標に合った学習プランを一緒に設計しましょう。
PESCI対策の臨床英語を集中的に鍛えるなら、HLCAの医療英語留学
HLCAは、セブ島を拠点とした医療英語専門の語学学校です。医師・看護師をはじめとする医療従事者向けに、臨床現場で通用する英語力を短期集中で身につける留学プログラムを提供しています。
PESCIは臨床英語力の集大成です。問診・Bad news告知・インフォームドコンセントといったシナリオを英語でこなす力は、一朝一夕では身につきません。HLCAの留学では、臨床ロールプレイを繰り返し実践するカリキュラムで、PESCI面接に必要な英語コミュニケーション力を集中的に鍛えることができます。
PESCI対策を含めた医療英語の学習プランについて、まずは無料カウンセリングでお気軽にご相談ください。
監修:海仲 由美(Yumi Uminaka)
HLCA代表/医療英語教育者・カリキュラム開発責任者
医師・看護師・薬剤師など医療従事者向け医療英語教育を専門とし、これまでに延べ3,000名以上の医療従事者への指導・研修を実施。
医療現場で実際に使われる英語表現・患者対応・多職種連携に特化したカリキュラム設計を強みとし、病院・クリニック向け教育プログラムや医療英語教材の開発・監修を多数手がける。
本メディアでは、現場視点と教育専門性の両面から、実践的かつ正確な医療英語情報の監修を行っている。




